旭川荘の原点となったものが、1954(昭和29)年に公表された旭川荘設立趣意書です。川﨑祐宣の想いに共鳴し、旭川荘設立の発起人の一人となった岡山博愛会理事長の更井良夫氏が、川﨑の掲げる医療福祉の理念を実現するために起草しました。
財団法人川崎病院はその寄附行為第二条の目的及び第三条の事業に規定されている諸事業の一部として総合的な社会福祉事業を別記の如き企画に於いて行わんとす。近代社会福祉事業の特長は公的扶助の性格が濃化したことにあるが、その反面被扶養者の取扱いに於いて愛情の欠け易い欠点があり、また時々刻々に変化する時代と社会の要求に応じ切れないうらみがある。かような欠陥をともなっているにもかかわらず時代の切実を要求により公的社会福祉事業は終戦後国家責任感の成長と共に発達して来たが、それには自ら限度のあることが判明した。
一方個人の恣意による私的社会福祉事業も益々発展して来た。公的社会福祉施設の欠陥を補うため私的社会福祉事業を更に発展させる必要があるが、その基本的立場は昔流の慈善博愛の事業ではなく社会共同責任観念の自覚と発達に促されたところの、いわば公的性格を持った私的事業でなくてはならない。
現在公的福祉施設は限られた階層の救済に主力を注がれているが、それのみでは我が国民の福祉は決して解決されないし、また社会福祉事業は救貧事業ではなく社会全体のために行われるべきと考えるが故に、地域社会が要求する諸問題を鋭敏に感知しそれを認識し、社会的使命を自覚する立場から、本事業の基本的方向を決定して出発させたいのである。
而して社会福祉事業の発展は社会の民度(文化)の高さに比例するが故に民度が高くなれば認識する問題は多くなる。それに答え解決する力を与える責任が私共にありとの使命感に生きる同志が茲に相謀り多方面の社会的協力を得て新しい総合的社会福祉事業を実現させんと開拓者的計画を夢みている。此の意味に於いて私共は開拓者であり、精神的であり、能率的であり、従って模範的であり得る確信を持つものである。
元来人間は不平等に生まれて来ているし、何日何時不幸に見舞われるかも判らず、又は個人の欠点及び其の責任に於いて招来しない文明の生む不幸もある。文化程度が高くなると今迄平気でいたことが不幸に感じられて来るが、之等の問題の認識に立って問題や要求の解決に当りたいため或は全部が全部社会事業法に合致せずともこれは私共の良心的手腕によりて現今社会にある不安と冷遇の問題を発見し、現行の社会福祉事業の不備不足の発見とその拡充対策を計画したい念願である。
敢言せば私共は現行社会福祉事業の発展充実策を実践しようとして広く関係者の協力を得て本県に於ける問題が調査され測定されて真に解決される必要が明らかにされて企画立案され従前の如き直感や漠然たる要望や思いつき等による部分部分の成果だけで考えられた欠点を改めて全体社会としての「必要」を常に基準として、それをより多く充足しようという意図と努力を以て総合的に、計画的に、相互連係協力して、組織的科学的専門的な方途を以て最も能率的に、効果的に本県に於ける社会福祉の問題を解決するために必要な社会資源を動員活用したいのであり、私共の取組んでいる問題とその対策を広く一般人士に理解し支援して欲しい悲願を立て、未だ我国に其の類を見ざる総合的社会福祉事業を建設せんとするものである。本事業は左記の如く社会福祉法人組織の準備中であるが、その認可を得る迄、先づ財団法人川崎病院の事業の一部として発足するものである。
一、名 称
旭 川 荘(仮称)
二、組 織
社会福祉法人(設立準備中)
三、所 在 地
岡山市祇園地先旭川筋(面積約 69,507.94坪)
四、代表者氏名
川﨑祐宣
五、事業計画
1.児童福祉に関する奉仕活動
2.老人福祉に関する奉仕活動
3.保健衛生に関する施設の建設
4.青少年のリクリエーションに関する奉仕活動
5.立体農場の建設
6.其の他必要と思われる福祉活動
六、資金造成の方法
1.財団法人川崎病院よりの寄附金
2.一般よりの寄附金
七、事業開始予定年月日
昭和廿九年 月 日
八、事業完成予定年月日
昭和丗九年 月 日
この総合社会福祉事業施設の構想は下記の通りである。 即ちこの総合施設の配置を決定し年次計画を樹立して緩急度に於いて考慮し、必要度の高きものより漸次結実させる。
1.事務局
2.中央診療室
3.田園都市建設
4.肢体不自由児施設
5.小児結核患者収容施設並びに身体虚弱児施設
6.精神薄弱児収容施設の治療教育院
7.保育所
8.老人ホーム
9.青少年のためのリクリエーションセンター
10.アフターケヤの施設
11.立体農業の建設
※1〜11の各項の詳細は省略
伊原木伍朗
大本百松
川﨑祐宣
河原省平
神崎保正
黒住宗和
児玉俊夫
更井良夫
清水多栄
高原滋夫
谷口久吉
津田誠次
西村伊勢松
浜本英次
本城明朗
前田秀雄
村上栄
守分十
山岡憲二
安井源吾
分島年